【ある日のデザート作成のキッチン】

 【録画開始。】(若い男の囁く声が聞こえると聞き取れぬ雑談が静かになり)


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(厚手の袋に沈められたビスケットをクッキングハンマーで軽く叩き、砕ける瞬間に乾いた破片が指先へ弾け、淡い音が耳の奥で波紋を描き、細かな粒が掌の中で静かに転がり、注ぎ込む溶かしバターがじわりと染み入り、指の腹に重みと湿り気を絡め、柔らかくまとめながら型へ押し広げ、寄り添う粒の温もりを掌に受け止め、圧を重ねるたびしっとりとした抵抗が指先に返り)


(冷蔵庫の扉が開くと、ひややかな空気が腕を包み、台の肌がゆっくりと冷えていく気配を指先が拾い、室温で溶けたクリームチーズがスパチュラの軌跡を辿ってとろりと広がり、器の内側に滑る余韻を残し、砂糖を落とせばざらついた粒が沈みながら溶け合い、微かな抵抗を宿した感触が手元に響き、口元に無意識の弧を描き)


(泡立てた生クリームが白い雲のように重なり、混ぜるたび空気を含んだ層がふわりと沈み込み、スプーンを伝って柔らかさが流れ、レモンの皮を削れば爽やかな香りが鼻先へ昇り、甘く温かなバニラの匂いが重なり、空気の中で溶け合う芳香を追うように、首をわずかに上げて香りの行方を探し)


(冷えた台にクリームを注げば、重たくゆるやかな流れが型の底へ沈み込み、その感触が掌を温かく撫で、摘みたてのブルーベリーをそっと置くたび、張りのある果皮が指先を押し返し、台に触れた瞬間にわずかな沈みを返し、作業を終えて並べたタルトを冷蔵庫に収めれば、密やかな冷気が満ちて指先を湿らせ、静かな冷たさを宿し)


(数時間の眠りを経てそっと触れれば、表面に確かな硬さが息を潜めて佇み、冷たさが皮膚を通して完成のささやきを送り、胸の奥に安堵が柔らかく広がり、ラッピングのために再びキッチンへと歩み寄り、音のない夜に作業の続きを溶け込ませ)


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【録画終了。】(再び囁きと重なるように爽やかな雰囲気の談笑が始まり。デザートを作っていたとおぼしき人物の「ラッピングを手伝ってくれ。私は見えないんだから」と優しくたしなめる言葉の後に音も画像も確実に終わりを迎えた)